手がき文化研究所

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研究所設立の趣旨


学長


○上武大学と手がき文化
 
誰かに何かを伝えるため、あるいは何かを表現するため、人は筆を手にとり文字や絵をかきます。有史以前から現代にいたるまで、人類は手でかいたもので表現をする文化を長い時間をかけて育んできました。上武大学ではそのような手がきにまつわる様々なもの、歴史などを総称して「手がき文化」と呼んでいます。  本学では平成21年度より澁谷朋子理事長が担当される「美術」の講義に全国の大学に先駆けて絵手紙を取り入れました。講義の資料や論文、また電子メールなど、学生生活の多くの部分がデジタル化されている現代において、手がきに着目したこの取り組みは全国的な注目を集めました。これまでほとんど触れることのなかった毛筆と顔彩による絵手紙の作成は学生にとっても新鮮なものであり、また差し出した相手の喜ぶ様子は、手がきの良さを学生が再認識する結果となりました。澁谷理事長をはじめとする本学関係者は、創作活動の原点であり長い伝統を持つ手がきの文化が、教育に対して持つ力を高く評価しています。

○「手がき文化研究所」の概要
上記のように、上武大学では手がき文化を教育において、さらに人間生活を構成する主要な柱として重視しており、その研究を普及、推進するために平成26年4月1日より高崎キャンパスに「手がき文化研究所」を設立いたします。所長には本学客員教授であり日本絵手紙協会名誉会長である小池邦夫氏、顧問に澁谷朋子理事長、研究員に5名の本学教員が就任し、絵手紙の普及、及び手がきの文化についての調査や研究、また多胡碑に代表される群馬県内の手がき文化の探求などを進めていきます。  また、海外において絵手紙をはじめとする手がき文化の普及活動を行う予定です。小池先生がイタリアで絵手紙教室を開催した際、受講を終えた人々は絵手紙を絶賛して「筆を持った禅」だと評しました。絵手紙に取り組むときはみな無心になりますが、それが海外でも通じることがわかったのです。研究所ではすでにフランス(パリ)でのイベント計画を立案中です。

○研究所長・小池邦夫の原点
手がき文化研究所の所長に就任する小池邦夫先生は絵手紙の創始者であり、上武大学客員教授とともに日本絵手紙協会名誉会長を務めています。東京学芸大学書道科に学び、中川一政ら多くの芸術家、作家との交流を重ねるなかで絵手紙の世界を確立してきました。小池先生が代表的な手がき文化である絵手紙に取り組むこととなった原点は、小学校3年生の時に見た故郷松山の三輪田米山の書でした。少年であった小池先生は、自宅ちかくの石碑に刻まれた米山の書を見つけた途端、字の意味はわからないまま長い間見つめ続けたそうです。米山の書に惹かれた小池先生は“心をつかむものが世の中にはあるのだ”と感銘してその字に強いあこがれを抱きました。手がきの書が少年であった小池先生の心を揺り動かし、その後の人生に大きな影響を与えたのです。

○絵手紙の真価
小池先生は、書聖と称される王羲之(中国・東晋時代)の書の6割以上が「手紙」であることを大学時代に発見しました。手紙には飾らないよさがあり、そこが魅力につながる、また手紙であるからこそ感情がでていると評されます。現代書道を「技術・技巧の書」と「人間の書」に分類する小池先生は、前者が技術や装飾を強調するのに対し、絵手紙に代表される「人間の書」は日常を重視しているといわれます。気持ちのこもったものは技巧を凝らした作品に引けをとることはなく、むしろ「普段着」の書が一番美しい。絵手紙においては拙いことはマイナスではなく、自分が出ていることにこそ価値があると捉えるのです。書道史が物語るように、書の真髄は日常の書のなかにあり、その意味においては絵手紙こそ現代書道だといえます。

○絵手紙の特徴
絵手紙には多くの長所があります。まず、そのときの気持ちが形として残ること。数十年たったのちに見返してその当時の感情を思い起こすこともできます。 また、絵手紙は自由で平等です。紙、葉書などをどのように使い、何を書くかに決まりごとはなく、自由に自分の表現を生かすことができます。実際に、たとえ身体にハンディキャップがあっても手がきの表現においてはマイナスにはなりません。「拙いままに美しい」ことがあり得るのがその魅力の一つです。そして平等という点では、誰もが葉書50円ほどで差し出すことができ、相手に届いて読んでもらえるのです。 さらに、差し出した相手との距離も縮めることもできます。絵手紙は、相手を敬う気持ちさえあれば知らない人に出しても返事がかえってくることが多いのです。普段近づけない人に出した手紙に返信があれば、その人に一気に近づくことができます。そうやって、他分野の人との交流を実現することも可能となります。

上武大学 手がき文化研究所所長
小池 邦夫